連載第五回「奇跡が起こるか白虎会の執念」
いよいよ天道会さんとの再戦が行われようとしていました。昨年、5-0で大敗して、この1年間一生懸命稽古を積み上げてきました。昨年の敗戦をふまえて、精神的支柱である野島貞治に白虎会に入団してもらいました。しかし、選手の中には、昨年の準優勝のメンバーで十分だという思いがありました。試合会場を歩いていると、社会人連盟会長の孫田誠次先生とお会いしました。白虎会創設から、孫田先生からは良きアドバイスをいただき、お会いするたびに励ましてくれていました。私は孫田先生を心から尊敬していましたので、なんとか勝利して良い報告をしたかったのです。孫田先生は対天道会戦を若さで押せとアドバイスしていただきました。次に、稲垣孝一郎先生とも話しをする機会があり激励されました。対天道会さんとの布陣をどのようにして組めばいいのか悩んでいました。そこへ、関西学院大学のOBの鈴木厚さんが現われ談笑しました。鈴木さんは、私に4対1でいけるんと違うかなとアドバイスしていただきました。本当に4対1で勝てますかねと問うと、そう、天道会が勝つよと言い、がっかりしました。ただ、相手の先鋒はおそらく辻井選手で次が竹中選手だと聞かされました。田中成幸が辻井さんとどうしても再戦をしたがっているし、対辻井さんを想定して稽古を積んで来ていたので先鋒を田中成幸にしました。次峰は竹中さんとなると今の白虎会で竹中さんのハードパンチャーに勝てる選手が見当たらなかったので、五分五分の試合に持ち込めるのは水木智司しかいないと思ったので、水木智司に託しました。
![]() 決戦の前の円陣 |
![]() 次峰の水木智司、副将の西村哲夫 |
いよいよ試合が始まりました。ギャラリーの数も王者天道会さんを見たさに集まってきました。円陣を組む白虎会の選手達はこんなことをつぶやいていました。「天道会はバービー1000回も出来ないはずやから頑張ろう」と水木智司が話していました。かなりピントがはずれているようでしたが、水木智司の勝負にこだわる姿勢は時折、私も敬服することがあります。そして、この男は皆に期待されると異常に燃えるところがあるのです。先鋒の田中成幸が開始線に行くと昨年のことを思い出しました。彼は白虎会では珍しい大学の拳法部出身者でした。昨年はひとり成績が悪かったために落ち込んでいましたが、今年は一年を通して一生懸命稽古をしていました。相手は辻井選手ではなく竹中選手でした。鈴木厚さんの読みは見事にはずれていました。私は大丈夫かなと思っている矢先に先制の面突きが華麗に決まりました。田中成幸が必死に喰らいつきましたが次も決められ撃沈されました。続いて水木智司の出番でした。水木智司が一番苦手とするタイプが辻井さんでした。しかし、もうそんなことを言っている訳にはいきませんでした。彼とは幼少期からの付き合いがあり一番勝負にこだわっている男でした。第1回の連載にも書かしていただきましたが、あんなに軟弱だった彼が堂々として戦っている姿をみて、感無量になれるところがありました。私が裏方に回り、水木智司が表舞台に立ち、私の心の分身のように今日まで、白虎会を引っ張ってきてくれた水木智司に私の気持ちを託しました。
さぁ、試合が開始しました。どちらも静観して耐える攻防の中で、先に仕掛けてきたのが辻井さんでした。1分過ぎに水木智司の胴への蹴りが決まりました。1本です。そのまま試合は続き、追い込まれて来ていました。白虎会の応援部隊も必死で応援していました。常々言うことがありました。こうして試合に出れずに応援してくれる人がいることを幸せと思えということを、そして時間が経過して水木智司が勝利しました。白虎会の応援部隊は歓喜に満ちていました。これで全員が過去の呪縛から取り除かれたようでした。9年間目で初めて勝利したのです。しかし、鈴木厚さんの言うとおり1対4で終わるかもしれないので、若干不安でした。続いて酒辺健一でした。この男も軟弱でした。もし、日本拳法を続けていなかったら、チンピラにでもなっていたかもしれなかった酒辺健一が今、檜舞台に立っていました。この大会の前に皆で喧嘩をしていたり、我が家で遅くまで飲んだことを思い出しました。試合が始まりました。酒辺健一が相手を捕まえて、面に膝蹴りをいれました。審判は早々と旗を揚げました。一本です。応援団は大声援をあげていました。横を見ると、天道会さんが、自軍の選手に罵声をあびせていました。この瞬間が大変嬉しかったです。王者天道会さんも必死でしたので、そこから猛攻が始まりました。酒辺健一はあっさり一本を取り返されて、五分五分となりました。隣を見て喜んでいる場合ではなくなりました。続いての面突きに酒辺健一は散りました。これで、王手をかけられました。試合が終わった酒辺健一がうな垂れていました。続くは西村哲男でした。この年、20歳という若さで四段を所得し、白虎会の主将となりました。諸先輩達の板挟みとなり辛いこともあった一年間でしたが、借りを返す日がきました。相手は内藤さんでした。昨年、西村哲男は内藤さんに惨敗しました。リベンジなるか試合が開始しました。前半は五分五分でしたが西村哲男が攻勢をかけ、突面で一本を先取しました。その後、攻めて、凌ぐといった繰り返しでした。白虎会の応援部隊が悲鳴をあげていました。西村哲男は相手の技を必死で耐えていました。その時、時間切れで西村哲男が勝利しました。歓喜に満ち溢れていましたが、これで逆王手になりました。
いよいよ大将戦です。私はあまりに喉が渇き、広津良幸から水を手渡されて、息を整えました。野島貞治がその巨体ゆえ、のそのそと開始線の方に歩いて行きました。野島頼むぞと声をかけましたが、白虎会の応援の声は逆に小さくなっていました。最後に主力選手がいないからです。辺りを見渡すと観客で一杯になっていました。天道会さんも怒涛のような声援を送っていました。野島貞治に声をかけてもうるさくて届かない状態でした。戦前までの皆さんの予想は池田さんの2-0の圧勝だったと思います。まさに万馬券を握りしめている気分でした。さぁ試合が開始されました。池田さんが蹴りをいれると野島貞治が掬い受けして、金的に蹴りをいれました。何度も足がグローブから抜けていきそうになっていましたが、必死に蹴りをいれました。すると、「ピー」という笛の音が耳に届きました。一本です。後ろで大騒ぎになっていましたが、野島貞治が私に向かって手を伸ばして「どうだ」と言わんように歩いて開始線に戻りました。場内も騒然としてきましたが、続いて二本目が始まりました。池田さんが猛攻をかけてきましたが、必死で野島貞治が凌いでいました。あと残りもう少しとなったときに、池田さんに投げられて面に膝蹴りをいれられました。1対1になりましたが、そこで時間切れの引き分けになりました。2勝2敗1分で代表戦となりました。本当に野島貞治はよくやったと思いました。この日から野島貞治はロートル選手ではなくなりました。勝ちに等しい引き分けでしたが、まだ、勝負はついていませんでした。代表戦の選手はこの男しかいませんでした。水木智司です。水木智司を呼びよせこう言いました「野島が引き分けるとは誰も思わんかったやろ。流れはうちやから、お前も勝てると思って行け、悔いを残す試合だけはするなよ」と言い、送り出しました。
代表戦までの休憩時間の1分間が長く感じました。たくさんの人がその間に激励に訪れてくれました。いよいよ試合が開始されましたが、相手は辻井選手でした。さきほども対戦した相手でしたが、たまたま勝ったような試合内容でしたので、水木智司の更なる奮起が必要でした。試合が始まり膠着状態が続きましたが、先に決めたのが水木智司でした。1本と笛がなり、隣の応援部隊が騒々しくなってきました。あのバービーを1000回したときにも応援してくれていたメンバーが多かったからです。しかし、辻井さんにあっさりと1本を返されてそのまま時間切れとなりました。続いて、無制限の1本勝負となりました。周りは熱気と両軍の応援でこちらの声が届かないのが実情でした。攻められて、攻めての攻防でしたが、辻井さんの面への蹴りが一瞬、面をかすめたかと思いましたが、不十分で試合が続いていました。私はここまできたので、攻めろと指示を出しました。すると、水木智司は辻井さんを払い越しで投げて、倒れた所を後頭部に膝蹴りをいれました。場外すれすれの所でしたが、審判が高々と旗を上げました。1本です。その瞬間、水木智司が小さなガッツポーズをして勝利しました。
その瞬間は夢見心地だった。まさか1年間でこの子達はこんなに辛抱強くなったのかと感極まっていました。続々と選手が引き上げてきました。後日、この試合をビデオで撮っていたのが高橋尚也だったのですが、興奮して揺れて揺れて見にくかったのです。本人も相当興奮していました。また、荒堀絢美も初めて青年部の試合を見て感動して声がうつろな状態だった。二部の主将をしていた真鍋裕も感動したと拍手をやめなかった。川野寿彦さんも大喜びして選手皆の頭をはたいていた。広津良幸は目頭から涙が見えた。吉谷孝治は試合が決まってすぐに握手をしてきた。皆で勝利した試合でした。あのバービーが白虎会を大人のチームにしてくれた記念日だった。しばらくして、野島貞治が私の元にやって来た。本当に引き分けて、水木にパス出来てよかった。と安堵感に満ちていた。水木智司、酒辺健一、西村哲男、原田勝志、田中成幸、高橋浩二の顔からも笑顔が絶えなかった。しかし、これだけ頑張れたのも難攻不落の天道会さんという大きな目標があったからだと思います。5年前に天道会に勝てるチームを作りたいと言い、大笑いされたことを思い出しました。クールランニングという映画がありましたが、ジャマイカのボブスレイのチームがオリンピックに出場して善戦するという実話の映画でしたが、常夏の国の人間が冬のオリンピックに出場できるわけがないと皆に笑われて奮起するという内容の映画に白虎会がダブって仕方がなかったのでした。
試合後かなりの方に激励されました。それと有言実行できたことが嬉しかったのです。しかし、よくよく考えれば、まだ二回戦を終えたばかりでした。続いての相手は強敵の三密会さんでした。高野山大学の0Bチームでまたしても、大学0Bチームの力を痛切する試合内容でした。準々決勝は三密会さん相手に1-4で敗れてしまいました。天道会さんに 勝って優勝や。と口癖のように言いながら、次の試合で早々と敗れ去ってしまうところが、課題の多いところだとつくづく感じました。またもや、大学OBチームの壁がありました。そして、指導者の私が悪いと思い、選手の皆に申し訳なかったです。しかし、二部が頑張り三位になりました。高校二年生の真鍋裕に責任感を持たせて、試合に挑ませたのが、非常に良かったのでした。
![]() 表彰を受ける二部のメンバー 左から 川野寿彦、吉谷幸治、真鍋裕、青木健一、青木一雄 |
![]() 全員での記念撮影 真鍋裕の活躍が目立った |
この年、第5回白虎会大会が枚方総合体育館で開催され、210名が参加していただき、高段の部で拳友会の西郷隆宏選手が水木智司に1-0の延長戦で勝利し、第2代のチャンピオンを防衛しました。また、この年から大阪学院大学の監督の木村京守監督にはかなりお世話になり、現在までも私は大変お世話になっています。こうして、白虎会大会が右肩上がりになっていくなかで、翌年からは、高段の優勝者にはビックな贈り物が渡されるようになった。なぜ、豪華景品が増え続けていったのかは、白虎会のメンバーの他人まかせが許せなかったからである。それについては、次号掲載させていただきます。
次回は「激闘 ! 28分の闘い」です。10月28日連載です。
連載第1回「日本拳法と三人の軟弱後輩との出会い」
連載第2回「白虎会誕生と涙の別れ」
連載第3回「運命を変えた道場との決勝戦」
連載第4回「グァム遠征と一年越しの天道会との再戦」